外国人社員の年末調整はどうする?国外に住む家族を扶養に入れる条件と「送金書類」の落とし穴をわかりやすく解説
10月に入り、給与担当者にとっては年末調整の準備が始まる季節です。技能実習生や特定技能外国人を雇用している企業からよく聞かれるのが、「外国人社員の年末調整は日本人と同じでいいのか」「母国にいる家族を扶養に入れられるのか」という質問です。結論からいうと、手続きの枠組み自体は日本人と同じです。ただし、国外に住む家族を扶養控除に入れる場合の書類要件と、年齢による対象の絞り込みという外国人雇用ならではの論点があり、ここを知らないまま12月を迎えると「書類が間に合わない」「控除が認められない」という事態になりがちです。本記事では、外国人社員の年末調整の基本と、10月のうちに始めておきたい準備を整理します。
外国人社員も年末調整の対象——分かれ目は国籍ではなく「居住者」かどうか
年末調整の対象になるかどうかを決めるのは、国籍や在留資格ではなく、所得税法上の「居住者」かどうかです。居住者とは、日本国内に住所があるか、現在まで引き続き1年以上「居所」がある個人を指します。実務上のポイントは、1年以上の予定で日本に入国した人は、入国した日から居住者として扱われることです。技能実習生も特定技能外国人も、通常は1年以上の在留を予定して入国するため、入国初年度から日本人社員と同じように年末調整の対象になります。2027年4月に始まる育成就労(原則3年の就労)でも同様に考えられます。
一方、在留予定が1年未満の短期就労者などは「非居住者」となり、年末調整の対象外です。非居住者に支払う国内勤務分の給与は、原則として20.42%の源泉分離課税で課税関係が完結します。また、年の途中で退職して帰国する社員(出国により非居住者になる人)は、出国の日までに年末調整を行うのが原則です。12月を待たずに精算が必要になるため、帰国予定は早めに把握しておきましょう。あわせて、住民税は1月1日時点の住所地で前年の所得に課税されるため、帰国後に前年分の住民税の請求が残ることがあります。帰国時の一括徴収や納税管理人の選任まで案内できると、本人も会社も後々のトラブルを避けられます。
なお、2026年(令和8年)分は、基礎控除や給与所得控除の引き上げ、扶養親族等の所得要件の緩和(合計所得58万円以下→62万円以下)といった税制改正が反映される年です。給与計算ソフトの更新と申告書様式の変更点は、外国人・日本人を問わず全社員分の確認が必要です。
国外に住む家族を扶養に入れるには——30歳以上70歳未満は原則対象外、「まとめ送金」も認められない
外国人社員の年末調整で最もつまずきやすいのが、母国に住む家族——国外居住親族の扶養控除です。国外居住親族を扶養控除等の対象にするには、申告書に加えて次の2種類の書類が必要です。
① 親族関係書類——戸籍や出生証明書など、本人の親族であることを証明する外国政府発行の書類と、その親族のパスポートの写しなどです。扶養控除等(異動)申告書の提出時に必要になります。② 送金関係書類——金融機関を通じた外国送金の依頼書の控えや、本人が家族に渡したクレジットカード(家族カード)の利用明細など、その年に生活費・教育費を支払ったことを示す書類で、年末調整時に必要です。現金の手渡しは書類が残らないため認められません。また、外国語で作成された書類には翻訳文の添付が必要です。
さらに、2023年分以降は対象者の範囲が大きく絞り込まれています。30歳以上70歳未満の国外居住親族は、原則として扶養控除の対象外です。例外として認められるのは、(1)留学により国内に住所・居所を有しなくなった人(留学ビザ等書類が必要)、(2)障害者、(3)その年に生活費・教育費として38万円以上の送金を受けている人(38万円送金書類が必要)——のいずれかに該当する場合だけです。たとえば「母国の60歳の父親を扶養に入れたい」という場合、年38万円以上の送金とその証明がなければ控除は認められません。
もうひとつの落とし穴が「まとめ送金」です。送金関係書類は扶養親族一人ひとりに対する支払いを示す必要があり、たとえば配偶者と子ども2人を扶養に入れるのに、配偶者あてにまとめて送金していると、原則として子ども2人分の控除は認められません。送金のしかたは年が明けてからでは直せないため、10〜12月のうちに点検しておく価値があります。控除が認められるかどうかで12月の還付額は大きく変わります。社会保険の「額面と手取り」の説明と同じで、仕組みを事前に説明しておくことが、「聞いていた手取りと違う」という不信感の予防になります。
10月から始める準備——書類は「すぐには集まらない」前提で前倒しする
親族関係書類や送金関係書類は、本国の役所から取り寄せたり、1年分の送金記録を集めたりと、そろえるのに時間がかかるものばかりです。11月に配って12月に回収するスケジュールでは間に合わないことがあるため、次のチェックリストで10月のうちに動き始めましょう。
外国人社員の年末調整・10月のチェックリスト
- 対象者の棚卸し:国外居住親族を扶養に入れている(入れたい)社員をリストアップし、親族の年齢・続柄を確認。30歳以上70歳未満の親族は例外要件(留学・障害者・38万円以上送金)に該当するかをチェック
- 必要書類の案内はやさしい日本語+母国語で:「何の書類を」「いつまでに」「なぜ」を具体的に。本国からの取り寄せが必要な書類は最優先で依頼
- 送金方法の点検:扶養親族ごとの個別送金になっているか、現金手渡しになっていないかを確認し、問題があれば年内の送金から是正
- 帰国予定者の確認:年内に帰国する社員は出国までに年末調整。住民税の一括徴収・納税管理人の案内もセットで
- 申告書の記入サポート:国外居住親族の氏名(ローマ字)・生年月日・住所の記入は間違いが起きやすいため、記入例を用意するか面談形式で回収
- 改正の反映と結果の説明:2026年分の控除額変更を給与計算に反映し、12月給与で還付・追徴が出る理由をやさしい日本語で説明
年末調整は、外国人社員にとって「自分の税金がどう計算されているか」を知る数少ない機会です。10月の最低賃金改定で給与が変わった人も多いタイミングだからこそ、控除の仕組みと手取りの変化をていねいに説明することが、そのまま定着支援になります。書類のやり取りを「毎年の面倒な作業」で終わらせず、一人ひとりの事情を把握する機会として活用してください。
