外国人労働者の労災が過去最多——死傷者6,244人・死亡39人。「伝わらない安全教育」を変える受け入れ企業の実務をわかりやすく解説
10月の第1週は、職場の健康管理を見直す「全国労働衛生週間」でした。この機会にぜひ確認してほしいデータがあります。厚生労働省の集計によると、2024年に労災で死亡またはけが(休業4日以上)をした外国人労働者は6,244人と過去最多を更新し、死亡者数39人も統計のある2019年以降で最多となりました。在留資格別では技能実習が1,874人、特定技能が810人。外国人労働者が増えているから当然——とは言い切れません。労災の「発生率」を示す指標でみても、外国人は日本人を含む全体平均より明らかに高いのです。本記事では、データからみえる現場のリスクと、国籍を問わず企業に課される安全衛生教育の義務、そして「教育はしたが伝わっていない」を変えるための実務を整理します。
データでみる現状——技能実習・特定技能の労災発生率は全体平均の約1.7〜1.8倍
労災の多さを人数だけで比べると、「外国人が増えたから増えた」のか「外国人の現場が危険なのか」が区別できません。そこで使われるのが、労働者1,000人あたりの死傷者数を示す死傷年千人率です。厚生労働省の公表資料(2023年)では、全労働者の千人率2.36に対し、外国人労働者全体は2.77。技能実習は4.10、特定技能は4.31と、全体平均の約1.7〜1.8倍にのぼります。つまり同じ人数が働いたとき、技能実習生・特定技能外国人は日本人を含む平均よりはるかに高い確率で労災に遭っているのが実態です。
理由は大きく2つ指摘されています。第一に経験の浅さ。技能実習や特定技能で来日する人材の多くは、製造業・建設業・食品加工など労災リスクの高い現場に、作業経験が浅いまま配属されます。労災は一般に入社からの期間が浅いほど起きやすく、未熟練の時期と言葉のハンデが重なります。第二に言葉の壁です。「危ない!」「触るな!」という一瞬の警告が聞き取れない、機械の操作手順や禁止事項を日本語の口頭説明だけで教えられて分かったつもりになっている——。曖昧な指示が外国人スタッフに伝わらない構造は、品質や効率の問題である以前に、安全の問題なのです。
国籍を問わず義務——安衛法59条の雇入れ時教育と「理解できる方法」
押さえるべき法的なポイントは3つあります。第一に、雇入れ時・作業内容変更時の安全衛生教育は労働安全衛生法59条による企業の義務で、対象に国籍は関係なく、パート・アルバイト(留学生アルバイトを含む)も対象です。第二に、厚生労働省の外国人雇用管理指針は、この教育を「母国語や平易な日本語を用いるなど、本人が理解できる方法」で行うよう求めています。日本語の資料を読み上げて署名をもらっただけでは、形式は整っても指針が求める水準には届きません。あわせて指針は、労災防止に必要な日本語や合図を習得させること、安全標識に図解を用いることなども求めています。
第三に、労災保険は国籍・在留資格を問わずすべての労働者に適用されるということです。治療費(療養補償給付)や休業中の補償(休業補償給付)は外国人にも等しく支給されます。注意したいのは、休業4日以上の労災で義務となる労働者死傷病報告(様式には国籍・地域と在留資格の記載欄があります)を出さない・虚偽を書くいわゆる「労災かくし」は犯罪で、書類送検される事例が後を絶たないこと。「本人が帰国するから」「在留手続に影響しそうだから」といった理由で報告を曖昧にすることは、企業にとって最も大きなリスクになります。
「伝わる安全教育」に変える3つの実務
では、何をどう変えればよいのでしょうか。第一に、教材を「やさしい日本語+母国語」の二本立てにすること。厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」には、外国人労働者向けの安全衛生教材や視聴覚教材が英語・中国語・ベトナム語など多言語で無料公開されており、自社の現場に合うものを選んでそのまま使えます。ゼロから翻訳する必要はありません。第二に、理解の確認方法を変えること。「わかりましたか?」に「はい」と返ってきても、理解の証拠にはなりません。やってみせる→やらせてみる→本人の言葉で手順を復唱してもらう、の3ステップで確認し、禁止事項は「回転部に手を入れない」のような文章ではなく、写真やピクトグラムで「見て分かる」掲示にします。第三に、入社直後の数か月を手厚くすること。千人率が示すとおりリスクは経験の浅い時期に集中します。最初はペア作業を基本にし、「危ない」「止まれ」「触らない」など命を守る日本語を最優先で教え、日常的な日本語学習の支援につなげていく——これは定着率を上げるオンボーディングとそのまま重なる投資です。
安全教育の「伝わり度」セルフチェック
- 教材の言語:雇入れ時教育の資料に、やさしい日本語版または母国語版があるか
- 理解の確認:署名だけでなく、復唱・実演・小テストで理解を確認しているか
- 現場の表示:禁止・警告の掲示が図解やピクトグラムで「見て分かる」か
- 緊急時の言葉:「危ない」「止まれ」など緊急の警告語を初日に教えているか
- 発生時の手順:労災発生時の報告ルート(死傷病報告含む)を担当者が説明できるか
安全教育が「伝わる」土台になるのは、結局のところ日々の日本語力とコミュニケーションの積み重ねです。事故は突然起きるようにみえて、その手前には「ヒヤリ」とした瞬間や、意味が分からないまま続けていた作業が必ずあります。それを拾い上げられる関係づくり——定期的な面談や相談しやすい環境は、失踪・離職の防止だけでなく、労災の防止にも直結します。外国人材の受け入れが珍しくなくなったいまこそ、「教えたか」ではなく「伝わったか」を基準に、自社の安全教育を一度点検してみてください。
