育成就労まで半年——義務づけられる日本語講習に「教える人が足りない」。受け入れ企業がいま動くべき理由
技能実習に代わる新制度「育成就労」の施行(2027年4月1日)まで、2026年10月1日でちょうど半年となりました。これにあわせてNHKは、新制度がまとまった日本語講習を義務づけるなど日本語教育に重点を置く一方、「教える側」である日本語教育の担い手確保が課題になっていると報じています。制度の要件そのものはすでに公表済みですが、この報道が示しているのは少し別の問題です。つまり、ルールを守る準備をしても、講習を頼める相手が足りないかもしれないということ。本記事では、担い手不足がなぜ受け入れ企業の実務に跳ね返るのか、そして残り半年でやっておくべき準備を整理します。
何が報じられた?——制度開始まで半年、焦点は「日本語を教える人」
育成就労は、3年間の就労を通じて人材を特定技能1号の水準まで計画的に育てる制度で、技能と並ぶもう一つの柱が日本語能力の育成です。就労開始前にA1相当の試験(日本語能力試験N5、JFT-Basic等)に合格していない人材は、認定日本語教育機関等による100時間以上の日本語講習の受講が必要になります。1日6時間でも3週間以上かかり、その間は就労できません。要件の全体像は「育成就労の日本語要件とは?就労開始前のA1から特定技能移行のA2まで」で解説しているとおりです。
今回の報道のポイントは、この「教育を義務づける制度設計」に対して、教育を提供する側の体制整備が追いついていないという指摘です。背景には次のような事情があります。
- 在留外国人の増加で日本語学習のニーズは拡大し続けている。政府は特定技能・育成就労あわせて123万人(2027年度からの受け入れ上限)という規模を見込んでいます
- 2024年に創設された国家資格「登録日本語教員」の登録者は、2026年7月1日時点で1万9,359人(文部科学省公表)。資格制度は始まったばかりで、教えられる人の総量は急には増えません
- 日本語学校など教育機関は都市部に偏在しており、働く外国人が多い地方・製造業集積地ほど「近くに頼める機関がない」状況が起きやすい
- 既存の日本語教育は留学生向けが中心で、働きながら学ぶ外国人向けの夜間・オンライン・現場対応型の受け皿はさらに限られます
なぜ企業の問題になるのか——「講習枠の確保競争」と費用の行き先
担い手不足は、一見すると教育業界の話に見えます。しかし実務では、次の形で受け入れ企業に跳ね返ります。
① 講習枠が「早い者勝ち」になる——2027年4月の開始に向けて、育成就労計画の施行日前申請はすでに2026年9月1日から受付が始まっています(申請スケジュールの解説はこちら)。全国の受け入れ企業・監理支援機関が同じタイミングで講習先を探すため、特に地方では、日程・定員の確保が後手に回るほど難しくなります。講習を受けられなければ就労開始が遅れ、採用計画そのものがずれ込みます。
② 需給が逼迫すれば講習費用は上がりやすい——そして育成就労では、来日にかかる費用のうち本人に負担させられる額に「月額賃金2か月分」という上限が新設されます。上限を超えた分は受け入れ側の負担です(費用負担ルールの解説はこちら)。講習費用の上昇は、そのまま企業のコスト計画に影響すると考えておくべきです。
③ 入国後の学習支援も「先生がいる前提」では設計できない——日本語要件は入国時だけではありません。1年経過時の受験、3年後の特定技能1号移行時にはA2相当(N4等)の合格が必要で、合格できなければ原則としてそのまま雇用を続けられません。週1回教室に通わせる形だけに頼った学習計画は、担い手不足の影響を正面から受けます。国の検討過程でもICT教材やeラーニングの活用が想定されており、講師の確保に左右されにくい学習手段を組み合わせることが現実的な解になりつつあります。
残り半年でやるべき3つの準備——「教えてもらえる前提」を捨てて設計する
担い手不足は一企業の努力では解消できませんが、影響を小さくすることはできます。考え方はシンプルで、「講習が必要になる場面を減らし、必要になる場面は早めに押さえ、日常の学習は内製の仕組みで回す」の3段構えです。
制度開始前・日本語教育の準備チェックリスト
- 入国前のA1合格を基本方針にする:送出機関・監理支援機関の候補に、入国前の日本語教育の内容と試験合格率を確認。「講習100時間」は例外ルートと位置づけ、合格を前提にした採用スケジュールを組む
- 講習ルートの備えは今のうちに:講習が必要になった場合の受講先(通学・オンライン)と費用分担を、監理支援機関と書面で取り決めておく。地方拠点ほど早めの確保が効きます
- 入国後の学習を「仕組み」にする:3年後のA2合格から逆算した学習計画を育成就労計画に落とし込み、アプリ・eラーニングなど講師不足の影響を受けにくい手段で日々の学習時間と進捗を見える化する。学習支援は転籍防止・定着の観点でも効果的です(定着の実践法はこちら)
「日本語教育に重点を置く制度」と「教える人が足りない現実」のギャップは、少なくとも制度開始の初期には埋まらない可能性が高いと見ておくべきです。裏を返せば、教育リソースを早く押さえ、社内に学習の仕組みを持つ企業ほど、採用の確実性でもコストでも有利になるということ。制度の全体像は「育成就労制度がスタート|技能実習からの移行で企業が知るべきこと」もあわせてご覧ください。
