最低賃金が全国平均1,177円に——10月1日から順次改定。外国人雇用で「最低賃金さえ守ればOK」ではない理由
2026年10月1日から、2026年度の改定最低賃金が全国で順次発効しています。全国加重平均は1,177円と前年度から56円の引き上げで、過去最高額の更新です。最低賃金は国籍・在留資格を問わずすべての労働者に適用されるため、技能実習生も特定技能外国人も当然に対象です。ただし外国人を雇用する企業にとって、今回の改定は「時給を最低賃金以上にしておけば終わり」の話ではありません。「日本人と同等以上の報酬」要件、雇用契約変更にともなう届出、本人への説明という、外国人雇用ならではの宿題が連動して発生します。本記事では、改定の概要と、10月のうちにやっておきたい賃金チェックを整理します。
何が変わる?——全国平均1,177円、ただし発効日は都道府県ごとに違う
2026年度の地域別最低賃金は、47都道府県すべてで54円〜65円引き上げられます。最高は東京都の1,280円で、神奈川県1,279円、大阪府1,231円、埼玉県1,196円、千葉県・愛知県1,195円と続きます。最も低い県でも1,085円となり、賃金の地域差は縮小傾向が続いています。
実務でまず注意したいのが、発効日が都道府県ごとに異なることです。今年度の発効日は2026年10月1日から12月2日までに分かれており、10月1日に発効したのは北海道・宮城・栃木・埼玉・千葉・東京・神奈川・新潟・富山・岐阜・愛知・三重・大阪・兵庫・香川の15都道府県。それ以外の地域は10月中旬〜12月上旬にかけて順次切り替わります。複数の都道府県に事業所や実習実施場所がある企業は、拠点ごとに「いくらに・いつから」を一覧化しておかないと、一部拠点だけ対応が漏れるリスクがあります。なお、派遣労働者には派遣先の地域の最低賃金が適用されます。
月給制の場合のチェック方法も確認しておきましょう。月給のうち最低賃金の対象となる賃金を1か月平均所定労働時間で割って時給換算し、地域別最低賃金額と比較します。このとき、通勤手当・家族手当・精皆勤手当、時間外労働の割増賃金(固定残業代を含む)、賞与は計算から除外しなければなりません。「固定残業代込みなら最低賃金を超えている」という状態は、計算上アウトになり得る典型パターンです。
なぜ外国人雇用では「最低賃金ぎりぎり」が通用しないのか
最低賃金法の遵守は日本人・外国人共通の義務ですが、外国人雇用では違反や「ぎりぎり運用」の影響がより大きく跳ね返ります。理由は3つあります。
① 法令違反が受け入れの土台を揺るがす——技能実習の実習実施者や特定技能所属機関には、労働関係法令の遵守が受け入れの前提条件として組み込まれています。最低賃金割れは単なる是正勧告では終わらず、計画認定・在留諸申請の審査や受け入れ継続の可否に直結します。2027年4月に始まる育成就労でも、この枠組みは引き継がれる見込みです。
② 「日本人と同等以上の報酬」は相場と一緒に動く——特定技能・技能実習では、報酬を同じ業務に従事する日本人と同等以上とすることが求められます。最低賃金の引き上げにあわせて日本人スタッフの時給・基本給を見直すなら、外国人だけ据え置きにした時点で同等性が崩れます。特定技能では在留諸申請や年1回の定期届出を通じて賃金の支払い状況が確認されるため、「発効日には最低賃金はクリアしていたが、日本人との差がついていた」という状態は後から問題になりやすいポイントです。
③ 賃金改定は「届出」と「説明」までがセット——賃金額の変更は雇用条件の変更です。特定技能では、雇用契約の重要な変更があった場合、事由発生から14日以内の随時届出が必要になります(定期届出・随時届出のルールはこちら)。あわせて、本人への説明も忘れてはいけません。「時給が上がったはずなのに手取りがあまり変わらない」——社会保険料や寮費控除の仕組みを説明していないと、昇給がかえって不信感のきっかけになります(額面と手取りの説明のしかたはこちら)。やさしい日本語や母国語の資料で、「いくら上がったか」「なぜ手取りはこの額か」を伝えるところまでが賃金改定の実務です。
10月にやっておく賃金チェックリスト——「全員一斉の見直し」を漏れなく回す
やることはシンプルですが、対象者が多いほど漏れが出やすい作業です。次のチェックリストで一巡させましょう。
最低賃金改定・外国人雇用のチェックリスト
- 自社拠点の改定額と発効日を確認:都道府県ごとに「新しい額」「発効日」を一覧化。10月1日発効の15都道府県はすでに新額が適用中です
- 全員分を時給換算でチェック:時給者は額面を、月給者は除外手当(通勤・家族・精皆勤・固定残業代等)を除いて時給換算し、新しい最低賃金と比較
- 日本人の賃上げと外国人の賃金を連動して見直し:同じ業務の日本人スタッフを引き上げるなら、特定技能・技能実習の報酬も同等以上を維持できているか確認
- 雇用条件書の更新と届出:賃金変更を雇用条件書・賃金規程に反映。特定技能は変更から14日以内に随時届出
- 本人への説明:昇給額と手取りの変化を、やさしい日本語・母国語でセット説明。給与明細の見方もあわせて確認
- 助成金の活用を検討:事業場内の最低賃金を引き上げて設備投資等を行う場合は業務改善助成金など、賃上げ関連の支援策も確認(外国人雇用で使える助成金まとめはこちら)
最低賃金の引き上げは確かにコスト増です。しかし、特定技能外国人が過去最多の44万人に達し、転職の自由がある特定技能では待遇が「選ばれる理由」そのものになっています。改定対応を「法令クリアの作業」で終わらせず、日本人と外国人の賃金バランスを点検し、きちんと説明する機会に変えられる企業ほど、採用でも定着でも優位に立てるはずです。
