外食の特定技能、受け入れ停止から半年——求人2.8倍・都市部への転職急増。地方の受け入れ企業がいま打つべき「選ばれる職場」づくり

外食の特定技能、受け入れ停止から半年——求人2.8倍・都市部への転職急増。地方の受け入れ企業がいま打つべき「選ばれる職場」づくり

外食業分野の特定技能1号の新規受け入れが2026年4月に原則停止されてから、この10月で半年になります。時事通信の報道によると、停止後、国内に在留する特定技能人材を対象とした外食業の求人数は2.8倍に増え(民間調査)、地方から都市部への転職が急増して地方の人手不足に拍車がかかっているといいます。海外からの新規供給が止まると、採用の主戦場は「いま日本にいる人材」の奪い合いに変わる——この半年で起きたことは、外食業に限らず、外国人材を雇用するすべての企業にとっての先行事例です。本記事では、停止から半年の転職市場で何が起きているのか、なぜ地方から人材が流出するのか、そして地方・中小の受け入れ企業が打つべき定着策を整理します。

※本記事は2026年10月8日時点の報道・公表情報にもとづく一般的な解説です。最新の受け入れ状況や個別の対応については、出入国在留管理庁・分野所管省庁の発表や専門家にご確認ください。

停止から半年で何が起きたか——求人2.8倍、主戦場は「国内在留人材」へ

経緯を簡単におさらいすると、外食業分野では特定技能1号の在留者数が上限(受入れ見込数)の5万人に達する見込みとなり、2026年4月13日から海外からの新規呼び寄せや他分野からの変更が原則停止されました。制度創設の2019年以来、初めての長期停止です。仕組みの詳細は受入れ見込数の解説記事で整理したとおりで、停止後もすでに外食業分野で在留している人の雇用継続と、分野内での転職は引き続き可能です。

その結果が、この半年の転職市場に表れています。新しく海外から呼べない以上、欠員補充も新規出店の人員確保も「国内ですでに外食業分野で働いている特定技能人材」から採るしかありません。報道にある求人2.8倍という数字は、まさにこの「分野内の奪い合い」の過熱を示しています。求人が増えれば、働く側から見れば選択肢が増え、より高い賃金・より良い条件の職場へ移る動きが活発になる。それが地方から都市部への転職急増という形で表面化しているわけです。

なぜ「地方から都市部へ」が加速するのか——賃金差と転職の自由という構造

背景にあるのは、個社の努力ではどうにもならない構造要因です。第一に賃金差。2026年度の最低賃金は最も高い東京が1,280円、最も低い県で1,085円と、時給ベースで約200円の開きがあります。母国の家族への送金を目的に働く人にとって、月収数万円の差は転職の十分な動機になります。第二に、特定技能は技能実習と違って同一分野内の転職が制度上可能だということ。転職には在留諸申請が必要で一定の時間はかかりますが、「辞められない」在留資格ではありません。第三に、都市部には同国出身者のコミュニティや送り出し・紹介のネットワークが集積しており、知人経由・SNS経由で好条件の求人情報が地方にも日常的に届く環境があります。

2026年6月末時点のデータでも、特定技能在留外国人は44万人超と過去最多を更新し続ける一方、都道府県別では愛知・東京・大阪など都市部への集中が進んでいます。重要なのは、これが外食業だけの話ではないことです。在留者数の伸びが大きい分野では今後も受け入れ停止が起こり得ますし、停止が起きていない分野でも「分野内転職の自由×地域間の賃金差」という構造は同じです。さらに2027年4月に始まる育成就労では一定要件下での転籍(本人意向の転籍)が制度として認められるため、「採った人材が動き得る」前提は、今後の外国人雇用の標準になります。

地方・中小の受け入れ企業がいま打つべき3つの定着策

賃金差そのものを埋めるのが難しいとしても、転職の意思決定は賃金だけでは決まりません。「よくわからない不満の放置」が引き金になるケースが多いからこそ、地方・中小企業にも打てる手があります。

「選ばれる職場」をつくるチェックリスト

  • ① 待遇を「説明できる」状態にする:都市部の求人と単純な時給比較をされる前提で、寮費・水道光熱費・食事などの現物支給を含めた手取りベースの実質待遇を本人に見える化する。日本人と同等以上の報酬の説明や、10月から明示が義務化された待遇差の説明とも地続きの実務になる
  • ② 不満と困りごとを早期に拾う仕組みを持つ:退職の申し出があってからでは、転職先が決まっていることが多い。月1回など定期の面談で仕事・生活・日本語の困りごとを記録し、対応状況を見える化する。「相談したら変わった」という経験の積み重ねが、求人情報への耐性になる
  • ③ この職場に残る理由=キャリアパスを示す:特定技能2号への移行支援(試験対策・実務経験の積ませ方)や日本語学習支援を明示し、「ここにいれば長期で働けて成長できる」道筋を示す。2号は在留期間の上限がなく家族帯同も可能なため、都市部の時給差に対抗できる数少ない武器になる

新規供給が止まった分野で起きたこの半年の変化は、「採用力」より「定着力」が外国人雇用の成否を分ける時代への転換点といえます。いま働いてくれている一人ひとりの待遇・面談・キャリアの記録を整え、選ばれ続ける職場をつくることが、受け入れ枠の有無に左右されない最も確実な人材戦略です。

よくある質問

外食業以外の分野の企業にも関係がありますか?
関係があります。受入れ見込数(受け入れ上限)は特定技能のすべての分野に設定されており、在留者数の伸びが大きい分野では外食業と同じく新規受け入れの停止が起こり得ます。新規供給が止まった分野では国内在留人材の獲得競争と転職の活発化が起こる、という今回の構図は、どの分野にも当てはまる先行事例です。また、停止が起きていない分野でも特定技能は同一分野内の転職が可能なため、待遇や支援体制の見劣りする職場から人材が流出する構造自体は共通です。
特定技能外国人は自由に転職できるのですか?
技能実習と違い、特定技能は転職(受け入れ機関の変更)が制度上認められています。同一業務区分内であれば新たな試験も不要です。ただし手続きは必要で、転職先が決まっても在留資格変更許可申請などの在留諸申請の許可が下りるまでは新しい職場で働けず、審査には一定の期間がかかります。企業側から見ると、「辞めさせない」仕組みは存在しないため、選ばれ続ける待遇と支援体制をつくることが唯一の定着策になります。
退職の申し出があってから引き留めるのでは遅いですか?
遅いケースが多いのが実情です。転職の背景には賃金差だけでなく、待遇への不満を相談できる相手がいない、キャリアの先が見えない、日本語や生活の困りごとが放置されている、といった積み重ねがあります。退職の申し出の時点では転職先が決まっていることも多く、条件の上乗せでの引き留めは他の社員との公平性も崩します。定期面談で不満や困りごとを早期に拾い、待遇の根拠を説明し、特定技能2号などのキャリアパスを示しておく「予防」が現実的な対策です。
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定着力は、一人ひとりの待遇・面談・学習の記録から生まれます。

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